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2006.10.17

大江健三郎の『懐かしい年への手紙』

 大江健三郎の作品の中でも傑作の呼び声が高いこの作品を、ようやく読み終えました。
 一、二、三部の構成になっていて、第一部と第三部とは現在の設定、第二部が過去という設定になっています。
 この第二部を読んでいるときから、大きな感動を感じながら読みました。そのスケールの大きさと、緻密に積み上げられていくイメージから受ける印象は、ほんとうにすばらしいものだと思います。『万延元年のフットボール』も同じようなイメージの積み重ねがありましたが、この作品から受ける印象は、さらに大きなものがあったと思います。
 音楽ではバッハの『マタイ受難曲』やマーラーの交響曲六番、七番、八番なども、一つ一つの細かいイメージが積み上げられていくという印象を受け、大きな感動を受けます。絵画でも百号などという大作には一年以上もかけてこつこつと積み上げられていくと聞いています。それらと同じように、この作家が日々緻密な作業を続けているということを考えると、その作品が世界中で読まれているということも納得するのです。

 大江健三郎の作品のいくつかに登場する「ギー」という人物が、この作品では重要な位置を占めています。作家自身がこの「ギー兄さん」は自分の分身、「僕自身のそのように生きるべきであった理想像が投影されている」と、最後の「著者から読者へ」という文章の中で述べています。
 この作品で「ギー兄さん」は、「Kちゃん」すなわち「僕」という人物に向かって、その人生の様々な局面で意見を言い、あるいは「Kちゃん」の作品を批判し、あらたな提案を与えるということが繰り返されます。それによって作家自身がいう「理想像」が描かれ、さらには人間として生きる理想像が作り上げられているのです。それ故に読むものに大きな感動を与えるのではないでしょうか。

 このように豊かな作品を読むことができたということは、ほんとうに幸せであったと思います。

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