« 手帳のこと | Main | イラン:米が空爆計画作成か »

2007.02.20

『バラバ』――死の向こうにある希望に生きる

 『バラバ』という小説(尾崎義訳、岩波書店、1953年)を再度読んだ。前回は1974年3月読了したと記録してある。

 この作品はスウェーデンの作家ラーゲルクヴィストという人の作品である。「バラバ」というのは人の名前で、イエス・キリストが十字架刑を執行されるときに、イエスの代わりに解放された人物。
 イエス・キリストが死罪に当たるとして訴えられたときに、そのときのユダヤの総督ポンテオ・ピラトが、この人には死罪に当たるような罪状は認められないと主張した。しかし訴えた群集は「イエスを十字架につけろ」と騒ぎ立てた。ピラトは困ってしまい、毎年、過ぎ越しの祭りという大きな祭りの時には、罪人を一人釈放するという温情の習慣があったので、それを利用してイエスを許そうとした。
 そこでピラトはそのとき重罪人として牢に入れられていたバラバを引き出してきて、「イエスを解放するか、この重罪人のバラバを許すか、どちらかを選べ」と群集に提案する。イエスに対するねたみに駆られていた群衆は「バラバを解放しろ。イエスを十字架につけろ」と叫んだ。こうしてバラバは思いがけず、突然に釈放された。この小説はこの人物バラバについての物語である。

 バラバがイエスの十字架刑の現場に立ち会っているところから、この小説は始まる。そしてイエスの復活とともに、イエスを神と信じるキリスト者たちと交渉が始まる。バラバはキリスト者たちが言っているイエスが神であるということや、その信仰のことなどを聞かされるがうまく理解できない。そしてやがて始まるキリスト者への迫害の中で、何人かのキリスト者と出会うが、そのキリスト者たちは迫害によって命を奪われていく。それにもかかわらず彼らは、その死の向こうにあるイエス・キリストという輝かしい希望に、決して死を恐れることがなく死んでいくことが語られていく。バラバはその希望を自分のものとすることが出来ない。何度も死にそうな目に出会っても、不思議な方法で命を永らえる。でも彼はキリスト者たちの希望を自分のものとすることはできない。
 最後にはローマの町で火災が起きたとき、バラバはその放火の現行犯として逮捕される。他にも多くのキリスト者が逮捕されていた。歴史的にもこのローマの大火は、キリスト者たちの仕業と言われている。バラバは最後に他のキリスト者たちと処刑される。

 この作品は全体として人間の死の問題、あるいは死に直面したとき人はどうなるのかという問題を扱っている。迫害の中にあってもキリスト者たちがいかにしてその死を乗り越えていくかがテーマとなっている。それに対してバラバはいつも、そのいのちの暗黒の中にさまよう者として描かれている。最後にも彼は十字架につけられ、息絶えるとき、その暗黒に語りかけ、「おまえさんに委せるよ、俺の魂を」としか言えない。

 作者のラーゲルクヴィストは、この作品によって1951年度ノーベル賞受賞を決定的なものとした。

« 手帳のこと | Main | イラン:米が空爆計画作成か »

「書籍・雑誌」カテゴリの記事

Comments

Post a comment

Comments are moderated, and will not appear on this weblog until the author has approved them.

(Not displayed with comment.)

TrackBack

TrackBack URL for this entry:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/18113/13985050

Listed below are links to weblogs that reference 『バラバ』――死の向こうにある希望に生きる:

« 手帳のこと | Main | イラン:米が空爆計画作成か »

August 2015
Sun Mon Tue Wed Thu Fri Sat
            1
2 3 4 5 6 7 8
9 10 11 12 13 14 15
16 17 18 19 20 21 22
23 24 25 26 27 28 29
30 31          
無料ブログはココログ