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2007.12.13

カフカの『変身』を読む

 カフカの『変身』を読んだのは三十歳くらいのことだったと思う。その後『審判』や『城』などとともに、私の書棚に入っていたが、いつのまにか紛失してしまっていた。今回図書館から借りて来て読んだ。

 カフカの作品というものは実に不思議なものである。ありそうもないことを連綿と書きつづることによって、それがあたかも存在しているかのように見えてくる。いやむしろその方が現実なのだと思えるようになる。
 人間の歴史の流れということを考えると、このような才能がどうしてこの時間の流れの中に存在するようになったのか、不思議である。カフカは1883年から41年間の生涯を生き、結核で1924年に亡くなった。彼が作品を発表するようになったのは1913年くらいからである。すなわち彼が三十歳の頃からである。ということは作品を書くようになって10年か15年くらいという事になるのではないか。この短い期間に、どうしてこのような才能が記録されたのだろうか。
 人間の生涯は70年程度である。しかも成人するまでに20年くらいを要するので、実質は50年くらい、これも実際に才能が開花して実を結び、芸術作品として歴史の中に残っていくのは、20年か30年くらいの間に作り出されたものでしかない。そしてその芸術家はこの世を去っていき、再びこの世に戻ってくることはない。しかし同じようにして別の才能がこの世に誕生し、作品を残し、その人もまたこの世を去っていく。
 カフカという作家は、自分が生きる社会を理解するのに、ふつうの人が持っている感覚とはかなり違ったものを持っていたように思う。しかしこれは一つの表現なのであって、カフカ自身には、自分が生きている社会がそのように見えていたものだと思われる。写真というものは真実を写すものではあるが、現実の風景を切り取ってくるために、作品となったものには現実とは違った意味が付加されることになる。そこに写真としての「作品」が誕生する。文章も同じである。
 グレゴール・ザムザという青年がある朝目覚めると一匹の毒虫に変身してしまっているという、現実にはあり得ない出来事が語られていく。しかしこの毒虫を巡って家族も、そのほかの人々も、大変な騒ぎとなるのだが、これはまったくふつうにあり得るこの世の人間生活の現実であると言える。そこだけを切り取り、捨象し、拡大して見せるのである。
 カフカは家族の一員が突然毒虫に変身したら何が起こるかという事を、実験的に書いたのではなく、彼の感覚では自分の回りの現実はそのように見えていたのではないか。岩波文庫の『変身』にバンドルされている『断食芸人』という作品もそうである。始めのうちは人々に興味をもって見物されているが、やがて人々はこの興業に関心がなくなり、ついにはサーカスに売られてしまうが、そこでもまた観客の注目を受けることなく死んでいってしまう。一人の変わったキャラクターの人物の運命を描いているというよりも、世の中というものはこのようではないかと提示して見せていると言った方がいい。
 だから読むものに共感を与え、それ故に圧倒的な迫力を与えるのではないか。それゆえにまたこれらの作品には読み応えがあるのではないか。

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