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2010.02.19

ミシュレの『魔女』(岩波文庫版)を読んだ

 ミシュレの『魔女』(岩波文庫版)を読んだ。

 素晴らしく面白い本だ。この岩波文庫を手に入れたのは、もう随分前だ。読み始めた時には、自分の予期したものとは内容が違う感じだったので、読み進めることができなかった。ところが今回、何気なく読んでみると、実に面白いものであることがわかった。この文庫は現在、版元品切れになっている。新品で買ったのだから、おそらく10年くらいも前に買ったのではないか。

 「魔女」というよりも、女性一般について論じていると言ってもいいのではないかと思う。「論じている」といっても、これは論文ではなくて、文学作品、物語というジャンルに属するものだろう。しかしそれは単なる女性論ではない。その時代の女性に対する極端な社会の偏見というか差別というか、そういう現実の中で女性自身がいかように生きようとしたのかということが描かれている。キリスト教会の聴聞僧よりも、魔女の方が問題を聴き分けてくれるという。

 いやむしろ、個々の女性の問題を聴き分けてくれる魔女の方が普通であって、キリスト教会は歴史上の教義を保持することに心が奪われていて、一般の女性の社会問題には何も気が付いていなかったのだというのが正解なのではないか。とすれば現代でも、何らかの権力――権力とは言わなくても、この社会を動かすほどの力をもつ人々は、その動かすための、文書化された方法が大事なのであって、社会が、すなわち人間が直面している多様な現実には何も目が届かないのであろう。

 そういう意味でこの『魔女』という作品は、現代的な物語であるということができる。

 この作品には中世の歴史の暗黒面が描かれている。「暗黒面」と言ったが、こちらのほうがむしろ明るみであるはずであり、正当とみなされている歴史の方が、実は暗黒なのではないか。いわゆる「中世の歴史」というものは、すなわちキリスト教会の歴史である。その意味で中世の歴史というものは興味深い。この作品からはそういう暗黒面が推察されて、それが非常に興味深いのかもしれない。

 しかし現代のキリスト教世界にも、魔女的なもの、言いかえれば悪霊の働きというものがあり、その悪霊を人から追い出すことができると自称する人たちがいることも事実。これはまた不思議な世界である。

 かつて『神の国の証人ブルームハルト父子』という本を読んだ。この本は井上良雄という人の手になるもの。内容は父ブルームハルトが、自分が牧会する教会の中で、思いもかけずに悪霊と対決するというもの。これに対して教会の歴史性、あるいは教会教義の歴史性にたつ組織からは、父ブルームハルトは異端とみなされていく。しかしこの出来事によって、教会の中には大きな変化が起こり、真の意味での敬虔主義教会が誕生したというようなことが述べられている。

 キリスト教会の中でこのようなことが起こるのは、不思議なことにいつの時代でも、どこの地域でもありうることらしい。人間というものは実に不思議なもので、その人間が形作っている世界というものも実に不思議なものである。この『魔女』にはそういうことが描かれているのだと思う。

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