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2010.09.01

松井冬子&福井利佐

昨日、NHKオンデマンドで二人の若手の絵画作家について見た。両方とも「トップランナー」という番組である。この「トップランナー」という番組は以前より時間が短くなったような気がする。そしてインタビューする男女二人のスタッフも新しくなった。

第一に見たのは日本画の作家である松井冬子という人。次のように紹介されていた。

〈東京藝術大学で日本画を専攻。伝統的な日本画の手法を用いながら、松井冬子の作品は従来の日本画の枠を大きくはみだす異色なものだ。モチーフにするのは幽霊、内臓など。時に「衝撃的」「暴力的」とも映る、その作品を通じ、松井は一貫して人間の「痛み」「苦しみ」を描いてきた。松井のアトリエをMC・箭内道彦が訪問。独特の技法を目の当たりにする。スタジオトークでは、松井が描き出す“美しき世界”の秘密に迫る〉。

描かれているのは一見不気味なものである。しかしそこには実に的確な表現技術があって、そのあり得ないような不気味さを、見事に現実のものとして描き出している。そこにこの人の特徴、見るべきものがあるのではないかと思った。東京芸術大学に在学中にはひたすら大量のデッサンを描いたと紹介されていた。それによって身につけた描写力の見事さ。幻想的な作品ではあるが描くときは必ず実物を見てデッサンすると言っていたが、その実力が幻想的ではあるが、対象物が現実にそこに存在しているという事実を見事に描き出している。司会の田中麗奈さんも紹介していたが、画面全体に描かれている藤棚から何本も下がっている藤の花が、下の方に行くに従ってたくさんの蜂の姿に変わっていくなどと言う表現は、ただただあきれるばかりの見事さであった。

日本画でこのような不気味なものを描くというのは、古くからの伝統があったのではないかと思う。何人かの作家の作品を見たことがある。雑誌などでも紹介されていたと思う。だからその不気味なテーマには驚かなかったが、その雰囲気をリアル化するテクニックにはびっくりさせられた。しかし本人にしてみれば、そこにおもしろさがあり、関心があり、表現追求の責任のような、あるいは自分を動かしている目に見えない力のようなものがあるのではないか。そういうものを感じながら描くのでなければ、このようには完成していかないのではないか。確かまだ三十代半ばだと思ったが、これらのテクニックを土台としてさらに見応えのある作品を作り出していくのではないかと思う。

もう一人は切り絵作家の福井利佐さん。オンデマンドの番組紹介覧には次のようにある。

〈カッター1本で切り取られる繊細かつ力強い、立体的な世界が、アート関係者や若い世代の関心を呼んだ、切り絵作家・福井利佐さんの登場です。福井さんが創作する切り絵は、日本伝統の技法を受け継ぎながらも、作品には今と言う時代が表現されています。歌手・中島美嘉がCDジャケットやツアーパンフに採用して注目されました。新しい世界を作る若きクリエイター・福井利佐さんが、「切り絵」の魅力や作品に込めた思いを語ります〉。

始めは「切り絵でぇ?」という感じだったが、そのタイトルバックに映し出された作品を見てびっくりしてしまった。自己紹介によれば、子どものときに感動した絵本の印象が残っていて、中学生のときに必須の選択科目で「切り絵クラブ」を選んだのだそうだ。その中学生のときの作品「とうもろこし」が紹介されていたが、トウモロコシの毛を描きたかったと言うだけあって、その毛の描写は見事だった。もちろん毛だけでなくて、全体の画面構成なども見事だった。

そのご切り絵とは離れた生き方をしてきたらしいが、多摩美大に入って、卒業制作に何を制作するかに迷ったときに切り絵を選んだという。それは家族の顔を切り絵で描いたものを16枚くらい並べたもの。この作品は卒業制作としては高く評価されたらしい。そしてある公募展に出品して特別賞を受け、注目されたというもの。この家族それぞれの、いわば肖像画であるが、切り絵というものはそこに描き出される黒の線がいのちである。普通の絵画は濃淡や色彩の変化で立体感を表現するが、それを切り絵でどう表現するかというのが、いわば挑戦である。彼女の作品はいままで誰も考えもしなかったような細かい線を切り出してそこに見事な立体感を描き出している。この番組の中で終始背景に使われていた作品の一つに、ハイエナの頭部を描いた作品があったが、この作品も一本一本の毛が描き出されているとも言って良いほどに見事であり、そこに立体感が表現されている。

この作家は番組の紹介にもあったように、歌手・中島美嘉さんのアートディレクターに見出されて、彼女のCDジャケットやパンフレットなどにも使われ、さらには婦人服の染色デザインなどにも使われているそうだ。最近はそのような異なったジャンルの作品の、いわばコラボレーションが盛んに行われているが、彼女の切り絵作品にはそのような可能性が秘められているのだろう。

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