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2011.08.12

『半分のぼった黄色い太陽』

チママンダ・ンゴズィ・アディーチェ著『半分のぼった黄色い太陽』を読み終わった。これは図書館から借りたもの。8月29日に武石の公民館で受け取って借りた。返却期限の三週間で、この大長編を読み終わるかと心配したが、二週間で読了してしまったことになる。500ページあったので一日35ページほどを読んだことになる。

アディーチェという作家はナイジェリア人。1977年生まれというのだから今年34歳になる若い女性の作家。この作品は2006年にすなわち彼女の29歳の年に発行された。ナイジェリア対ビアフラ戦争という悲惨な歴史を背景に物語が語られていくが、カイネネとオランナという双子の姉妹の日常を淡々と描いている。すなわちこの姉妹を中心とした日常の情景が語られていくのだが、その日常の中に突然のようにして悲惨な戦争が入り込んでくる。戦争による悲惨な現実も、彼女たちの日常の視点から描かれている。なにか大上段に振りかぶるような意識ではない。

このタイトルの「半分のぼった太陽」というのは、ナイジェリアから独立しようとしたビアフラ共和国の国旗のこと。1967年から始まったこの戦争は、イボ族という部族を中心に進められていく。一時はイボ族が中心になってビアフラ共和国が独立宣言をしたが、国際社会にはほとんど顧みられずに完全に敗北してしまう。このイボ族が住んでいた地域は、戦争と同時にたちまちのうちに飢餓状況に陥る。手足が骨と皮だけにやせ細り、おなかだけがボールのように膨らんだ子どもの写真が、報道カメラによって撮影され、全世界に衝撃を与えたことは私もいまでも記憶している。

ナイジェリアという国は、アフリカ大陸が西側に突き出た地域の南側の大西洋に面する国で、かつてはそこの原住民がアメリカやヨーロッパへ奴隷として輸出されていたところである。「奴隷海岸」と呼ばれていた。もともとはイギリスの植民地であった。その関係で北部はイスラム教徒が多いが、南部はキリスト教化されている。国土は日本と同じくらいであるが、人口はアフリカでも最大で1億5千万人ほどが暮らしている。

このような歴史的背景を持っているので、白人あるいは白人がもたらす白人文明に対するあこがれとかコンプレックスがあるらしい。この物語はこの白人文明の中にある中産階級の家にハウスボーイとして雇われるウグウというイボ族の少年の目が見たことから語られていく。

このような原住民たちは少しでも文明に接して自分を文明化しようと必死になっている。この本のタイトルの「半分のぼった黄色い太陽」ということが、それを意味しているのではないかと思った。同時に日本もかつては半分しかのぼれない太陽だったのではないか「日出ずる国」と言われ、その国旗は完全にのぼった太陽を表していると言うのに。いまでも民族意識の中には太陽が半分しか登っていないのではないかと思う。

いずれにしても文明とか、文明の進展ということが、時には絶対的に善であると信じられる傾向にあるが、それが絶対的な善であるとは決して言えないのではないかと思う。

このところ中米の作家、アフリカの作家たちの作品を読んできたが、いずれもその地域の歴史の中にしっかりと根を下ろした作品だったことが印象的だった。日本の作家たちは、今のこの現実、すなわち東北大震災とか、原子力発電事故という大きな歴史の出来事の中で、物語を紡ぎだす人はいないのだろうか。それは非常に重要な働きなのではないかと思う。

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Comments

はじめまして。
TEDでチママンダさんの講演を見て興味を持ち、先ほど短編集『アメリカにいる、きみ』を読み終えたところです。とても感動しました。
次は『半分のぼった黄色い太陽』を読んでみます。長編なので躊躇していましたが、こちらの書評を読み今読まなければならない本だと強く思いました。
また、日本からも良い作品が生まれてくることを心から祈っています。

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