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2011.08.07

M.トゥルニエ『フライデーあるいは太平洋の冥界』

この本を読み終わった。岩波現代選書の中の一冊。出版されたのは1982年8月。たしか古書店で買ったものと思う。だから入手したのは1990年代。入手して間もなく読み始めたが、内容の難しさに圧倒されて読み進むことができなかった。その後も何回か挑戦したが果たせなかった。今回覚悟を決めて読んだ。小説というより哲学書を読んでいるようだった。

この作品はダニエル・デフォーの作品『ロビンソン・クルーソー』を土台にしている。私はこのデフォーの作品は読んでいない。私はこの『……太平洋の冥界』を買う時に、デフォーの作品の替わりになるかもしれないという変な考えを持って買ったことは記憶している。この『……太平洋の冥界』は、内容がとても難しくて一言ではとても言い表せないが、人間と人間が生み出す文明というものとの関係というか、その意味とは何かということを考えているのではないかと思う。

フライデーというしもべを得たことによって、ロビンソンが描いていた文明というものがことごとく破壊されていく。遭難した船バージニア号から取り出してきた大量の火薬を、ロビンソンはその島の洞窟の奥深くに保管していた。フライデーがこの洞窟の中で、ロビンソンに隠れてタバコを吸っていたことが原因となって、その大量の火薬が爆発した。それによってロビンソンが営々と築き上げてきた文明のすべてが破壊されてしまうところがある。ここがこの作品の山場になっている。

これを今日、すなわち2011年の8月7日に読了した。この年の3月には、大震災が引き金になって福島第一原子力発電所が爆発した。この出来事によって、第二次世界大戦後に営々と築き上げてきた日本の文明はほとんどが崩壊してしまったのではないかと思う。

人間の歴史は果てしなく文明を築き上げてはそれを崩壊させるということの繰り返しである。『……太平洋の冥界』のロビンソンは、偶然にこの島に接近した船によって救助されるチャンスがあった。しかし彼はその船長との会話、あるいはその船内の様子を知るに及んで、その船によって救助されることを拒んで、すなわちロビンソン自身はかかわりを持たなかった世界の進化した文明の中に埋没することを拒んで再び島に戻り、そこに築き上げてきた自分の文明の中に自分を解放することによってこの作品は終わる。

この本は岩波現代選書の一冊である。これは変った版型をしている。いわゆる四六版の変形というのだろうか。新書版のような縦型の形で、新書版を一回り大きくしたような形態をしている。ページ数も300ページを超えるので、重量もある。1978年5月という日付が付けられた「刊行のことば」は、世界経済が巨大化し、文明がそれまでとは違った大きな動きを示していた時代の興奮状態をうまく表現している。「思うに、われわれは大いなる歴史的転換点としての『現代』に立ち臨んでいるのであろう」と言う。このような「時代の要請」にこたえて「岩波現代選書」は発足すると言っている。

しかしいまこの2011年の時代には、この選書は休止しているように思う。現代の文明の急速な変化に対応できなくなったのか、あるいはすでにその目的を果たしたということなのかはわからない。私には前者のように思えるが、このとどまることを知らない文明の迷走の前に、私は恐れるのである。

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