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2011.12.16

『骨狩りのとき』2

エドウィージ・ダンティカの『骨狩りのとき』を読了した。一言で言うとだれでも人間には生きる権利があり、同時に一人の人間として死ぬ権利もあるというもの。戦争や原爆などで殺されてはたまらないのである。作品社から出版され、四六版330ページ。

この作家はハイチの女性の方である。愛し合っている二人がゆえなく引き裂かれていくという物語だ。そのせつない物語がドミニカ共和国によるハイチ人大虐殺というわずか数日でしかない社会の大混乱を背景として描かれていく。

この事件は1937年に起こった。今でも世界の最も貧しい国と言われているハイチは、当時も政治的に不安定であり、民衆は生きる方途がなく、多くの貧しい人々は隣のドミニカ共和国に出稼ぎに行った。そこではサトウキビ畑や砂糖工場の労働者として働いた。ドミニカ共和国では当時すでにぎびしい格差社会があって、最も貧しい人たちはサトウキビ畑の労働者であった。ハイチからの出稼ぎ者たちは、それよりもさらに少ない賃金でこき使われた。

この本の"The Farmming of Bones"というのは、サトウキビの堅い茎を刈り入れることを意味する日常語だと訳者あとがきでは説明されている。それほどの重労働らしい。登場人物の一人に右腕ばかりの筋肉が異様に発達した若者が出てくるが、毎日毎日一日中なたを振るうという重労働を表現していると思う。

ドミニカ共和国の総統トルヒーリョは、ハイチからの出稼ぎ労働者が待遇改善を求めてストライキに突入したのをきっかけとして、ハイチ系労働者の国外追放令を出し、1万5千人の兵が動員されてハイチ労働者の住居を焼き払い、住民は国境の川へと追い落とし、1日に3万人以上をも虐殺した。このような社会事情を背景として物語が展開されていく。

この作品は作者ダンティカの取材によっている。ダンティカは1969年ハイチの首都ポルトープランスで生まれた。おそらくハイチ人の作家としてこの大虐殺の出来事を書かずにはいられなかったのであろう。最初には旧約聖書士師記の12:4-6が記載されている。そういえば聖書の中には大虐殺の記事が繰り返し出てくる。それぞれに意味はあると思えるが、どうして人間というものはこのように殺し合うものなのだろうと、いつも考えさせられる。

この物語には最初から終わりまで、たくさんの人たちの死が語られている。そのたくさんの死人たちは丁重に葬られることもなく、祈りもなく、終油もなく、墓もなく、ただ捨てられるように殺されていく。最初に書いたように人は誰でも自分の死に方にも自分の主張があるだろう。勝手に自分のいのちを奪われてはならないのではないか。福島の原子炉崩壊によっては死者は出ていないが、日常生活の根っこを奪われてしまったことは、死にも等しいのではないか。

今でも世界のあちこちにはこのような現実があるのを聞くことは悲しい。

2011.12.10

『存在の耐えられない軽さ』を読む

ミラン・クンデラの『存在の耐えられない軽さ』というのを、ようやく読了した。これは難しかった。タイトルも難しいが中は哲学書を読んでいるようだった。しかしカバーの後ろ側の宣伝文句によると「究極の恋愛小説」だそうだ。

この恋愛小説は、1968年のチェコ事件、すなわちソ連によるチェコ侵攻という事件が背景になって、物語が展開する。この動乱が元になった政治的混乱の中で、作者のクンデラは国外追放を余儀なくされ国籍もはく奪されてしまう。それ以後、彼はフランスで作家として活躍する。

チェコという国は、モラビアとボヘミアという二つの歴史を持った民族によって構成されている。スメタナとかドボルザークなどという有名な交響曲作家がいる。そういう印象から私は豊かな自然環境を背景とした人々の生活を思い浮かべることができる。

医師のトマーシュと奔放な画家サビナとの出会いから物語が展開していく。ふたりは上の歴史的事件の中で愛をはぐくんでいくが、最後は結ばれずに終わるらしい。そういう物語の中で、サビナという女性の情感が生き生きと描かれていく。このサビナという女性を描く文章の隅々からは、チェコ人というのはこういう豊かな人間性を持っているのかと思わせられる。

これは映画化されている。私は多分テレビで放映されたものを見たはずだが、いくつかの場面は今でも印象的に記憶に残っている。人間一人ひとりの存在は重いものである。しかしいつの時代のどの民族の中にも政治的な動乱があり、そういう中で一人の人間の存在は揺れ動かされていく。このような時代的背景の中で、民族の豊かな歴史を物語っていくこの作品は、ほんとうにすばらしい内容を持っていると思う。とてもいい小説を読んだという気持である。

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