2013.08.14

神戸の老舗書店も閉店

神戸の老舗書店も閉店 後継者不足、ネット販売に押されて経営不振

町の書店がまた一つ消える。神戸市の老舗、海文堂書店が2013年9月末に閉店する。8月6日付の自社ブログ「海文堂書店日記」にも、そう記している。

日本著者販促センターによると、全国の書店は5月1日時点で1万4241店。最近の10年間に約5000店が閉店している。

■「活字文化」の発信地、創業100年目前に・・・

神戸の海文堂書店は、1914(大正3)年、海や船舶・港湾など海事関連書の専門店として創業。1970年代には海事書に加え、児童書や人文・社会分野の本も取り揃え、総合書店に転身。さらに郷土関連書籍を集めた「神戸の本棚」や、月刊通信「海会」や雑誌「ほんまに」の発行を通じて神戸の活字文化の発信地となっていた。

帆船の図柄のブックカバーは読書家らに愛されている。しかし、ピーク時の1996年と比べて、現在は6割程度にまで売り上げが減少。経営不振が深刻化していた。今後は書店を閉店し、東京での出版事業などに専念する。

海文堂書店は新刊書の販売とともに古書店の振興にも積極的だったが、兵庫県内では神戸・三宮センター街の「後藤書店」(2008年閉店)や、大正時代の創業で灘区の「宇仁菅書店」(12年閉店)などの歴史ある古書店が相次いで姿を消した。いずれも、後継者がいなかったことが理由だ。

そして、8月末には神戸・三宮の商業複合ビルにある古書街「サンパル古書のまち」で、唯一営業を続けていた「ロードス書房」が、約30年続けてきた店を閉める。兵庫県内の郷土史資料を中心に集めて、長く歴史研究者らに愛されてきたが、ビルにかつてのにぎわいがなくなるなか、ビルの衰退や店主の病気などを理由に店を閉じる。

神戸に限らず、町の書店の衰退は著しい。日本著者販促センターのまとめによると、バブル経済崩壊後の1992年に2万2500店弱あった書店は、10年後の2002年に1万9946店、その10年後の12年には1万4696店となった(アルメディア調べ)になった。

しかも、この数字は本部や営業所、外商のみの書店も含んでいるので、「店売している書店はもっと少なくなる」という。すでに現時点で1万800店前後になるのではないか、と予測。そして、閉店する書店の多くが地方都市などの中小書店だ。

■消費増税がとどめを刺す?

中小書店が減少する原因は、後継者不足のほか、アマゾンや楽天などのインターネット販売(電子書籍を含む)や、BOOKOFFをはじめとした中古書店や大型書店の相次ぐ出店がある。

なかでもネット販売の売上増は、町の書店に影を落としている。たとえば、アマゾン・ジャパンのネット書店の売り上げは2011年度が1920億円で前年比23.1%増。アマゾンと直取引契約している出版社は1460社以上になった、とされる。

「今すぐ、本が読みたい」となれば、電子書籍でなくても翌日には本が手元に届く。商店街にあるような、町の中小書店だと欲しい本が置いていないことも少なくないし、注文してから1週間かかることもある。

一方、ここ数年の新規出店は、郊外店や駅前、ショッピングモールと、資本力のある書店しか出店できなくなっている。読書家もそんな大型書店にしか足を運ばなくなった。

加えて、消費増税でますます本が売れなくなる、との見方がある。消費税が5%になった1997年以降は7年間も毎年1000店以上の書店が店をたたんだ。

書店数は2015年までに、1万店以下になると予測もある

2012.07.11

バルガス=リョサ著『チボの狂宴』

作品社刊、四六版、538ページ。再読。前回は図書館で借りて読んだ。あまりのおもしろさに圧倒されてしまって、今回ある人からいただいた図書券を使って購入した。

中米のカリブ海にあるドミニカ共和国で、31年間も続けた独裁者トルヒーリョの暗殺事件という、実際にあった事件を中心に描く。この作家の物語の語り方というものは、ものすごい迫力だと思う。多彩な人物が登場し、さまざまな視点から物語が語られていく。時間軸もさまざまに変化し、いきなり過去の出来事に帰ったり、フラッシュバックという手法が、きらめくように挿入されるとか、読む者は腰を入れて読まなければとてもついていけないというもの。そのような読者を無理やりに引きずっていくという物語のパワーはすごい。図書館で借りたときには、返却期限の三週間で読み切れるかどうか不安だったが、実際には一週間で読み終わってしまった。

独裁者というものはその人一人で成立するものではなく、その独裁者に名誉欲とかあらゆる物欲とか、その人のすべてを支配され、操作されている人たちの集団によって成立するというもの。それは人間の最悪の罪の現実である。

独裁者を襲撃するというシナリオは成功するが、それをきっかけに軍を支配して新しい国家を成立させる役割の人が、一瞬の決断をしそこなって、革命はあえなく崩壊していく。一方そういう欲望に金縛りになっている父親の手によって、独裁者の性的玩具として提供される娘の恐ろしい話は、危険を逃れたその少女が救いを求めて駆け込んだカトリックの修道院の手によって救い出され、同じ派の米国にある修道院へ送り出されるあっという間の救出劇を描く話も見事である。

「チボ」というのはスペイン語で「山羊」という意味。そしてこれは独裁者トルヒーリョを指している。「狂宴」という語も、訳者解説によれば、さまざまな仕掛けがされているということである。

全体として人間の悪も善も、すべてがえぐりだされるようにして物語られていく。独裁者というものは人間にとっては最高の欲求の目標なのではないかとさえ思える。それにしても今の世界を支配している民主主義というものも、これが最善なのかどうかも怪しいものだと思う。原発再稼働というシナリオも見えない手によって操られているという恐怖を感じる。

2012.04.10

『サラマンダーは炎のなかに』

『サラマンダーは炎のなかに』上下を読了した。ジョン・ル・カレ作、加賀山卓郎訳、光文社文庫、上下巻で732ページもある。スパイ小説という分野に属するものなのだろう。9.11のテロ事件とそれに続くイラク戦争という歴史を背景として物語が描かれていく。「サラマンダー」というのは「火の精」という意味らしい。この本の題は「火の精」は「炎のなかに」あるという意味なのだろう。原タイトルは"Absolute Friends"というのだから、「特別な友人」というような意味なのだろう。二人の国際的なスパイの活躍が語られていく。途中で何か齟齬があったのだろう、突然に国際的なテロの爆裂に巻き込まれてしまうという話。二人のスパイの友人が、国際的な事件・歴史的な出来事の「炎」の中で暗躍するという話なので、日本語タイトルはこうなったのだろう。なかなかしゃれたタイトルづけだと思う。著者は9.11からイラク戦争という歴史の展開の中で形成される米英帝国主義の動きにはかなり批判的らしい。

こういうジャンルの小説は初めて読むので、はじめは物語のどこに焦点を合わせて読んでいけばいいのかがよくわからなかった。よく理解できないままに強引に読み進めて、読了してみると「いい話だったなぁという印象」。お勧めの本だ。

2012.02.27

小岸昭著『マラーノの系譜』

この本を読んだ。みすず書房、四六版、110ページ。

「マラーノ」というのは、14-15世紀くらいにスペインやポルトガルといった地域で、強制的にキリスト教に改宗させられたユダヤ人のことを意味する。「マラーノ」というのはスペイン語で「豚」の意味だそうだ。彼らはキリスト教に改宗させられても、伝統的なユダヤ教の掟を守り続けた。そのために彼らはさらなる弾圧を恐れて、彼らだけの街を作って住んだ。弾圧する側は改宗させてしまえばめでたしめでたしとなるのかと思いきや、「豚」といって徹底して軽蔑し差別していた。

この時代には、狂信的になって国家権力をもほしいままにしたキリスト教会によって、ユダヤ教信徒は激しく弾圧された。この本はその歴史を語っている。改宗ユダヤ教徒の子孫であるスピノーザ、ハイネ、カフカそのほかの著作を分析しながら、この特殊な歴史が語られていく。非常に興味ある内容だった。このような弾圧を受けたユダヤ人たちの歴史があることは、私も知ってはいた。ユダヤ人は第一世紀の後半になって国を失って、ヨーロッパの各地に散らされていった。その一部はスペインにまで至り、さらには南北アメリカ大陸にまで及んだ。このように厳しい時代の中で、ユダヤ教を守り続けるエネルギーはすごいという感じ。このような歴史の周辺領域の知識に乏しい私には、多くの感動を感じながらも十分には理解できなという焦りがあった。

改宗ユダヤ人の子孫の一人であるカフカについて書かれた部分では、その『審判』という作品の意味を初めて知ることができたことは収穫だった。『審判』という作品は突然に何か理由のわからない容疑によって逮捕されたKという人物について語られていく。何回もの裁判がくりかえされ、弁護士との繰り返しの話し合いでも、何の容疑かもわからずただ右往左往させられるという物語だと、説明されていた。この時代のユダヤ人たちは、このような歴史の中で翻弄されていったのだということが、よくわかる。

2011.12.10

『存在の耐えられない軽さ』を読む

ミラン・クンデラの『存在の耐えられない軽さ』というのを、ようやく読了した。これは難しかった。タイトルも難しいが中は哲学書を読んでいるようだった。しかしカバーの後ろ側の宣伝文句によると「究極の恋愛小説」だそうだ。

この恋愛小説は、1968年のチェコ事件、すなわちソ連によるチェコ侵攻という事件が背景になって、物語が展開する。この動乱が元になった政治的混乱の中で、作者のクンデラは国外追放を余儀なくされ国籍もはく奪されてしまう。それ以後、彼はフランスで作家として活躍する。

チェコという国は、モラビアとボヘミアという二つの歴史を持った民族によって構成されている。スメタナとかドボルザークなどという有名な交響曲作家がいる。そういう印象から私は豊かな自然環境を背景とした人々の生活を思い浮かべることができる。

医師のトマーシュと奔放な画家サビナとの出会いから物語が展開していく。ふたりは上の歴史的事件の中で愛をはぐくんでいくが、最後は結ばれずに終わるらしい。そういう物語の中で、サビナという女性の情感が生き生きと描かれていく。このサビナという女性を描く文章の隅々からは、チェコ人というのはこういう豊かな人間性を持っているのかと思わせられる。

これは映画化されている。私は多分テレビで放映されたものを見たはずだが、いくつかの場面は今でも印象的に記憶に残っている。人間一人ひとりの存在は重いものである。しかしいつの時代のどの民族の中にも政治的な動乱があり、そういう中で一人の人間の存在は揺れ動かされていく。このような時代的背景の中で、民族の豊かな歴史を物語っていくこの作品は、ほんとうにすばらしい内容を持っていると思う。とてもいい小説を読んだという気持である。

2011.11.04

マルコス・アギニス著『逆さの十字架』

四六版、330ページ(訳者解説共)。アマゾンから買った。30日に届いたので4日ほどで読み切ってしまった。一日に80ページ強を読んでしまったことになる。初めはちょっと戸惑いもあったが、途中からは一気に読み進んでしまった。

「アルゼンチン軍事独裁政権下で警察権力の暴虐と教会の硬直化をきびしく批判」(帯)した内容で出版と同時に発禁処分を受けた。しかしスペインでプラネータ賞を受賞したことによって発禁も解かれ、一躍ベストセラーとなった。

物語はアルゼンチンの一カトリック教会で起こった出来事を描いている。その教会に新しく赴任してきた若い神父カルロス・サムエル・トーレスと、アグスティン・ブエナベントゥーラ神父の二人によって、若者を中心とした宣教と対話の集会が始められる。トーレス神父は形骸化したカトリック教会を批判し、聖書の教えに忠実に従う生活を若者たちに説く。それが成功して若者たちの中に純粋にキリストに従う生き方をするものたちが集まってくる。それは同時に祭儀を軽視することであり、礼典を無視することであり、カトリック教会の組織の崩壊につながるものであった。しかしトーレス神父は、聖書そのものを解き明かし、キリストの生き方を熱心に伝える。

同時に若者たちの動きは、その時代に反政府勢力として形成されつつあった動きに組み込まれていく。これによって悲劇が起こる。反政府勢力を弾圧しようとする警察権力によって、若者たちが集う教会が襲撃される。若者たちはやむを得ず教会に立てこもることになって、ついには催涙弾が撃ち込まれて崩壊していく。

後半はこの悲惨な出来事の指導者であったトーレス神父とブエナベントゥーラ神父とが、教会の裁判に立たされることになる。トーレス神父は同席する人々は同じキリストのしもべなのだから「キリストのしもべなら、こちらの話にきちんと耳を傾け、彼らが非妥協的で偏った危険思想と見なしているものが、現実的なメッセージとして福音書の中にちゃんと息づいていることを認める必要があるだろう。教会は神の国を築くために機能すべきものであり、そうでなければ何の役にも立たない」と思い、必ずや弁明の場が与えられると期待していた。

ところがその裁判を主導した教皇大使は一方的に裁判を進め、ついにはそこに集う人びとの「破門だ! 破門だ!」という叫びで終わってしまう。この裁判の様子を描くところは、同時に福音書のポンテオ・ピラトによるイエスの裁判の記事が並行して記述される。それゆえに2000年前に書かれた聖書の記事が、そのままの迫力をもって現代によみがえってくる。

冒頭の章には不思議な金泥の沼が描かれる。その沼の「実体は旧世界を革命というフィルターで漉した残りかすがたまったヘドロの沼」、すなわち現代世界が金とその経済的権力によって支配される泥沼であることを意味している。そして突然にその沼の中に「血に染まった軍靴と十字架が降ってきて、……軍靴の中には金がどっと流れ込み、十字架もぶすぶすと途中まで沼にはまってしまったが、互いに支え合ってどうにかこうにか浮いている」。説明するまでもなく軍靴は軍事権力を意味し、十字架は宗教の権力を意味している。そして両者とも経済力という金泥の中で、金泥にまみれて互いに支え合っているという図だ。この図が最後の章にも繰り返されて、全体を締めくくっている。

2011.09.06

『チボの狂宴』

『チボの狂宴』という本を読んだ。バルガス=リョサという作家の長編小説。作品社というところから発行されたもの。四六版で518ページもあった。図書館で借りたので、貸し出し期限の三週間で読み終わるかどうか不安だったが、なんと二週間で読了してしまった。すごく面白かった。

バルガス=リョサという作家はペルーの作家。この作品で2010年のノーベル文学賞に決定したらしい。

「チボ」というのはスペイン語で「山羊」という意味らしい。そしてこの作品はドミニカ共和国の大統領よりさらに上に位置した「総督」のトルヒーリョという実在の独裁者の暗殺という歴史的事件を、物語の土台として描いている。「チボ」というのはこの独裁者を指しているらしいし、「狂宴」と訳されたことばにも、さまざまな仕掛けがあると、訳者解説で述べられていた。

この作家の文章はすごい迫力がある。読んでいてそのパワーには圧倒されるようだ。このトルヒーリョのような独裁者は、人間の歴史上に数え切れないほど登場した。今でもカダフィなどという人物もいた。そのほかにもさまざまな人物が実在するが、人間社会というものは、このような独裁者を常に求めているのではないか。人間というものはそういうあらゆる権力を渇望するものであり、そういう罪人の集合体が人間社会なのだ。すなわち実力のある権力者を熱狂的に迎えるというのが、罪人人間の社会らしい。あらゆるスポーツに熱狂するのも同じ構造ではないか。

この『チボの狂宴』という作品は、独裁者暗殺という緊迫した物語と同時に、その独裁政治の支配に巻き込まれた一人の女性の破滅と再生を描いている。この女性に関するところは、この長編小説の最初と最後に出てくるだけ。しかし作家はこのことを重要なこととして描きたかったのだろう。感動的だった。

この少女を独裁者の魔手から救い出すために取った手段を描くあたりの文章はものすごい迫力だと思った。まさに一瞬の出来事であった。ドミニカ共和国にあった修道院は、この少女を独裁者の手から保護すると直ちに米国にある同じ派の修道院に逃れさせる。巨大な権力の物語が語られた背景からは、この一瞬の対抗処置を描くあたりの文章は、なんとそれはわずか一ページにしかすぎなかったが、すごい迫力であった。

全体として「人間存在への愛」が語られていると思う。

2011.08.07

M.トゥルニエ『フライデーあるいは太平洋の冥界』

この本を読み終わった。岩波現代選書の中の一冊。出版されたのは1982年8月。たしか古書店で買ったものと思う。だから入手したのは1990年代。入手して間もなく読み始めたが、内容の難しさに圧倒されて読み進むことができなかった。その後も何回か挑戦したが果たせなかった。今回覚悟を決めて読んだ。小説というより哲学書を読んでいるようだった。

この作品はダニエル・デフォーの作品『ロビンソン・クルーソー』を土台にしている。私はこのデフォーの作品は読んでいない。私はこの『……太平洋の冥界』を買う時に、デフォーの作品の替わりになるかもしれないという変な考えを持って買ったことは記憶している。この『……太平洋の冥界』は、内容がとても難しくて一言ではとても言い表せないが、人間と人間が生み出す文明というものとの関係というか、その意味とは何かということを考えているのではないかと思う。

フライデーというしもべを得たことによって、ロビンソンが描いていた文明というものがことごとく破壊されていく。遭難した船バージニア号から取り出してきた大量の火薬を、ロビンソンはその島の洞窟の奥深くに保管していた。フライデーがこの洞窟の中で、ロビンソンに隠れてタバコを吸っていたことが原因となって、その大量の火薬が爆発した。それによってロビンソンが営々と築き上げてきた文明のすべてが破壊されてしまうところがある。ここがこの作品の山場になっている。

これを今日、すなわち2011年の8月7日に読了した。この年の3月には、大震災が引き金になって福島第一原子力発電所が爆発した。この出来事によって、第二次世界大戦後に営々と築き上げてきた日本の文明はほとんどが崩壊してしまったのではないかと思う。

人間の歴史は果てしなく文明を築き上げてはそれを崩壊させるということの繰り返しである。『……太平洋の冥界』のロビンソンは、偶然にこの島に接近した船によって救助されるチャンスがあった。しかし彼はその船長との会話、あるいはその船内の様子を知るに及んで、その船によって救助されることを拒んで、すなわちロビンソン自身はかかわりを持たなかった世界の進化した文明の中に埋没することを拒んで再び島に戻り、そこに築き上げてきた自分の文明の中に自分を解放することによってこの作品は終わる。

この本は岩波現代選書の一冊である。これは変った版型をしている。いわゆる四六版の変形というのだろうか。新書版のような縦型の形で、新書版を一回り大きくしたような形態をしている。ページ数も300ページを超えるので、重量もある。1978年5月という日付が付けられた「刊行のことば」は、世界経済が巨大化し、文明がそれまでとは違った大きな動きを示していた時代の興奮状態をうまく表現している。「思うに、われわれは大いなる歴史的転換点としての『現代』に立ち臨んでいるのであろう」と言う。このような「時代の要請」にこたえて「岩波現代選書」は発足すると言っている。

しかしいまこの2011年の時代には、この選書は休止しているように思う。現代の文明の急速な変化に対応できなくなったのか、あるいはすでにその目的を果たしたということなのかはわからない。私には前者のように思えるが、このとどまることを知らない文明の迷走の前に、私は恐れるのである。

2011.06.25

バルガス=リョサの『緑の家』

昨日でバルガス=リョサの『緑の家』を読み終わった。524日に東京に行ったときに新宿の紀伊国屋書店で買ったので、ほぼ一カ月でこの大作を読み終わったことになる。早いのか遅いのかはよく分からない。岩波文庫の上下二巻になっているもの。

文学作品というものはヨーロッパではじまってイギリス、アメリカと伝わってきたもののような気がする。しかし中南米にも人間は住んでおり、人間が住んでいる限りはそこに物語もあるはず。この本の訳者である木村榮一氏は、中南米文学を紹介する岩波新書の一冊も書いている。作者のバルガス=リョサはこの作品によってノーベル文学賞を受けたということだ。

この『緑の家』は確かに読みごたえがあった。物語は非常に複雑に込み入っているので、なかなか全貌がつかめないで苦労した。しかし短編集ではないので、いつかは物語がつながるはずという興味でせっせと読んでいった。

舞台は南米ペルーの北部、沿岸平野にあるピウラという町と、アマゾン川流域のジャングルまでという、およそ800キロにも及ぶ。そしてジャングルの中の風景というものが丁寧に描かれているので、いままで読んできたヨーロッパ文学やアメリカ文学とは、一味もふた味も違う雰囲気を持っていた。

全体がⅠ、Ⅱ、Ⅲ、Ⅳとエピローグというものに分けられており、その中がまた3から4章に分けられて、それぞれの物語が展開していく。はじめは章ごとに別の物語が展開していくので、話の筋を把握するのに苦労する。そのうちに別の物語だったものが、互いに関連を持ち始めて、やがてはそれらが一つの大きな終結へと向かっていく。全体としては密林の中にも人々の生活が厳然として存在しており、そこに生きる人々には他から犯されてはならないもの、独自性というのか、自由とか権利とかいうものがあるのだということがたんたんと描かれていく。そういう意味では、人間というものの個々の存在というものは、独特なものであり、それは一体何だろうかと考えさせられるものであった。

いい物語だった。

2011.02.12

『真夜中に海がやってきた』

投稿日: 2010年11月1日 作成者: haikairoujin

スティーヴ・エリクソンの『真夜中に海がやってきた』を読了した。
今月の10日から読み始めたので、ほぼ二十日間で読み終わったことになる。一日にほぼ12頁というペース。読了後、最初の感想として述べておきたい。

一言で言って、「やはり現代小説はすごい!」ということではないか。ドストエフスキーや、メルヴイル、スタインベックなどを読み続けていて、できれば現代の作品を読みたいと思っていた。それで出版社のホームページなどを調べているうちに、筑摩書房のホームページでこの作品をみつけた。
紹介文などをよく読み、値段なども勘案して、とりあえずはこれを読んでみようと思って、アマゾンから取り寄せた。作品の題材となっているのは、まさに現代社会の混沌とした現実だろう。実際に作品の中でも「混沌」ということぱは、たびたび出てくる。作者はそれを意識し、何とかその混沌を描き出そうとしたのであろう。
最初にキルケゴールのことばが掲げられていて「ウン!」と思ったが、それが意味していることが、作品の中でどういう関連を持っているのかはよくわからなかった。キルケゴールの短いことばは、「おそろしいもの……に、勇気を奮い起こして近づくのは、信仰にもとづいた勇気ではない」というような意味ではないかと思う。
キルケゴールが言おうとしていたことは、まことの信仰――キルケゴールが言う「信仰」というものは、こちらがわから、勇気を奮い起こして近づくというものではなくて、すでにその恐ろしいものの向こう側に連れ去られているという状態なのだということではないか。そのように規定すると、このエリクソンの語っている人物たちは、この世界の混沌の前にうろうろしているということにすぎないのではなのか。

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